東京高等裁判所 昭和42年(ネ)2630号 判決 1968年8月30日
控訴人 同栄信用金庫
理由
被控訴人が訴外大都工業株式会社(訴外会社という。)に対し、東京地方裁判所昭和四一年手(ワ)第四、一八八号約束手形金請求事件の確定判決に基づく金一〇八、四〇〇円の債権を有していたこと、訴外会社は控訴人に対し、金額一〇八、四〇〇円、満期昭和四一年七月二五日、支払地、振出地ともに東京都新宿区、支払場所同栄信用金庫新宿支店、振出日昭和四一年二月二二日、振出人訴外会社、受取人株式会社湯本紙芸なる約束手形の不渡処分を免かれるため社団法人東京銀行協会に提供する目的で控訴人新宿支店に預託した金一〇八、四〇〇円の預託金の返還請求権を有していたところ、被控訴人は前記確定判決に基づき昭和四二年一月二一日東京地方裁判所より右債権に対して債権差押および転付命令をえ(同庁昭和四二年(ル)第一九一号、同年(ヲ)第二三七号事件)、右命令は債務者たる訴外会社に同年一月二六日、第三債務者たる控訴人に同月二三日それぞれ送達されたこと、これより先、被控訴人は右債権に対し昭和四一年八月一二日東京地方裁判所より仮差押命令をえ(同庁昭和四一年(ヨ)第六六五五号事件)、右命令はおそくとも同月一六日頃までに第三債務者たる控訴人に送達されたことは、当事者間に争がない。
《証拠》を総合すれば、控訴人は昭和四一年八月一六日訴外会社より、金額五〇〇、〇〇〇円、満期昭和四一年一一月一〇日、支払地、振出地ともに東京都大田区、支払場所平和相互銀行大森支店、振出日昭和四一年八月六日、振出人三信工業株式会社、受取人兼第一裏書人訴外会社(拒絶証書作成義務を免除して裏書)なる約束手形を割引により取得し、これを満期である昭和四一年一一月一〇日支払場所に呈示して支払を求めたところ拒絶されたこと、よつて控訴人は、昭和四一年一二月二六日付書面をもつて訴外会社に対し右手形の償還請求権を自働債権とし、訴外会社の控訴人に対する前記預託金返還請求権を受働債権として、対当額において相殺する旨の意思表示をし、右書面は同月二七日訴外会社に到達したことを認めることができる。
しかして、債権者が債務者の第三債務者に対する債権に対し仮差押をした後に、第三債務者が債務者に対して債権を取得した場合には、第三債務者は右取得にかかる債権と仮差押債権との相殺をもつて債権者に対抗しえないものと解すべきところ、前記預託金返還請求権に対する東京地方裁判所の仮差押決定が昭和四一年八月一二日付をもつてなされたことは前記のとおりであり、《証拠》によれば、右決定の送達場所とされた第三債務者たる控訴人の新宿支店の所在地は東京都新宿区内であつたこと、控訴人新宿支店支店長今井正夫は、昭和四一年八月一六日付回答書をもつて東京地方裁判所に宛て、「昭和四一年(ヨ)第六六五五号債権仮差押申請にかかる催告書に対し、債権を認め、債権目録記載の金一〇八、四〇〇円に限り、支払の意思がある。」旨の回答をしていることが認められるのであつて、これらの事実からすれば、控訴人は右仮差押決定の送達後に前記金額五〇〇、〇〇〇円の約束手形を割引いて取得したものと推定すべきである。のみならず、控訴人は昭和四一年一一月一〇日右手形が支払場所に呈示され支払を拒絶された後にはじめて裏書人たる訴外会社に対し右手形金額の償還請求権を取得したのであるから、この時をもつて訴外会社に対し相殺の自働債権たりうる債権を取得したものとしなければならない。
そうすると、控訴人はその主張の相殺をもつて被控訴人に対抗することができないものといわなければならないから、控訴人主張の抗弁は理由がない。
そして、《証拠》によれば、控訴人は、昭和四一年一二月二六日前記預託金を返還すべき義務を負担するに至つたことが認められ、本件訴状送達の日の翌日が昭和四二年二月二五日であることは、記録上明らかである。
右事実によれば、控訴人に対し金一〇八、四〇〇円およびこれに対する昭和四二年二月二五日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める被控訴人の請求は理由があり、これを認容した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却する。